日本真空協会のさらなる発展に向けて

           会長 尾浦憲治郎 大阪大学超高圧電子顕微鏡センター

  50余年の歴史を有する日本真空協会は,このたび一般社団法人日本真空協会と
して再出発することになり,はからずもその初代会長に就任することになりまし
た.法人化に尽力された岡野達雄前会長をはじめ歴代の会長,役員,個人会員,
法人会員などすべての関係者のご努力に敬意を表するとともに,今後も一層のご
支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます.
 どのような団体もその起源は有志や同好の士などの小さなグループから出発し,
その趣旨に賛同する個人や法人を増やしながら組織形態を整えてゆくのが通例で
す.本協会もそのような道筋をたどって発展してきましたが,50年を経過して,
社団法人としての組織の整備がようやく整いました.
 真空に関する技術や科学は,真空ポンプ,真空計測,粒子加速器など真空を作
る技術から,半導体プロセス,材料合成,薄膜堆積,表面加工,表面科学など真
空利用技術まで実に様々です.これら幅広い応用分野を支える基盤的な科学とし
ての重要性や,最先端技術開発や実用技術確立の手だてとしての重要性は今後も
ますます大きくなるものと思います.
 さて,一般的に個人や法人が自由に入会や退会が可能な社団法人(任意団体の
段階であっても)のような団体の運営に際して最も重要なことの一つとして,会
員満足度を高め会員メリットを維持することがあります.本協会においても,社
団法人化されたこの機会に,現在行っている活動をその視点から検証して,会員
メリットを明確に提示することが求められていると感じます.多くの会員が何を
求めているかというニーズの把握が不可欠であり,それを汲み上げる場の構築が
必要でしょうし,それに基づいた事業の実施が求められます.それらを推進する
ために最低限必要なこととして,情報開示とガバナンス確保の二つが挙げられま
す.特に,インターネットが発達した現代にあっては情報の開示と発信が極めて
重要であることは言うまでもなく,魅力ある活動を広く知らしめることは新しい
会員の獲得にもつながるものと期待されます.また,組織としてのガバナンスの
確立は,より多くの会員の本協会活動への参画意欲を高めると共に,組織を広く
オープンなものとすることにより,本協会のさらなる発展のためにも有効と考え
ます.本協会は,国際真空科学技術団体連合(IUVSTA)の日本代表団体として国
際的な連携活動をこれまで進めてきていますが,名実共にこの活動を強化発展さ
せることが望まれます.
 以上のような本協会の事業を推進し発展させるうえでの課題も浮かび上がって
います.最も重要でかつ喫緊の課題は財務基盤の強化であります.最近数年は経
常収支が赤字基調で推移しているようですが,組織としては極めて不健全であり
危機的状況にあると認識しています.平成23年度の重要な課題として,いずれも
仮称ですが,将来ビジョン検討ワーキング,財務基盤強化ワーキング,組織・定
款検討ワーキングなどを設置し,そこでの分析と対策立案を踏まえて早急に緊急
アクションプランのようなものを提示できればと考えています.
 最後になりましたが,本協会と友好的な関係にある日本真空工業会との一層の
連携強化を計りたいと考えています.真空工業会と本協会双方にとって重要な規
格・標準事業および真空技術士資格の認定事業などいくつかについては,合同で
進めることにより順調に推移していますが,この実績をベースにさらなる連携強
化を模索できればと願っています.
 以上,会長就任にあたってのご挨拶といたしますが,会員諸氏の一層のご支援
とご協力を賜りますようお願い申し上げます.